1
「ここではないどこかへ」
それが彼らのキャッチコピーだった
新興宗教団体「黄泉の国」は、
この世の中に不満を抱える人、生きがたさを抱えている人、
貧乏人、変人、マイノリティなどを中心に信者を増やしていた
池上紳助は、2代目の教祖だが
先代はいわば箱を用意しただけで
実質、団体を大きくしたのは彼だった
「ぜったいに勧誘してはならない」と紳助は言っていた
2
「ダイヤモンドになりなさい」と紳助は言った
「あなたが本物のダイヤモンドなら
誰かが見つけたら必ずそれを拾います
勧誘するというのは、偽物を売りつけよう、
自分が得がをしようという欲や焦りなのです
偽物を売りつけるのではなく、あなたがまず
本物のダイヤモンドになりなさい」と言うのだった
【】
黄泉の国の一般の人に向けた活動には
ラジオ体操や、小さな私営の塾などがあった
そこでも勧誘のようなことは一切なかった
さらに「来るもの拒まず、去る者追わず」で
信者をやめるのも自由だということになっていた
しかし、それは表向きの話で実は
信者にはライトコースを本格コースのような
二段階に分かれているという噂もあった
「勧誘してはいけない」とか、「去る者追わず」というのは
あくまでライトコース向けの話だというのだ
3
紳助は詐欺師であるという噂もあった
あまりに欲がなさすぎたからこそ生まれた噂であった
勧誘をしない、金に執着しない
それが彼の特徴だった
紳助は言う
「お金というのは、なんですか?
これは物々交換をする際に、便利であるという理由で生まれと言われてます
つまり、手段、道具ですね
本来は、お金そのののが目的ではなかったはずです
私が、お金を考えるときによく言うのが、『お金は水道管である』と。
お金を水道管にたとえます。
水道管というのは、なんですか?
水を運ぶためのものですね。
水道管そのものが目的ではない。
水道管ばっかり水も流さずに、集めまくったり、作りまくってもしょうがないわけです。
4
しかし世の中、お金は、なにかに使う、
ものやサービスに支払うとか、募金とか、国の財政もそうですね
使うために、目的のためにあるのに、
ただ、とりあえず増やしたいという傾向が、あまりに強すぎる。
まぁ一般の方が、ある程度もしものために蓄えるというのは必要でしょうが、
とにかくお金そのものが目的になっている面もあります。
」
こういう常識というか、屁理屈というか
どう受け止めていいのか、その真意をはかりかねるようなことを
紳助はたえず言っていた。
5
「金、人気、名誉、外見、あとは異性ですかね。
私は男なので、女性ということになりますが、
女性も同じくらい男性に執着してるものでしょうか?
まぁ、ちょっとその度合は同じかはわかりませんけども、
そういう人が暴走しがちな、欲望の対象というものがあります
たとえば人気というものね
これは私が、勧誘しないとしている理由とも関連する話です」
5
「人気ね
人気が先か、価値が先か
人気のあるものは、つねに価値があるのか
価値のあるものは、つねに人気があるのか
これを考えてください
」