ジェンダーSF小説 「心地よい弾丸 heavenly bullet」

純粋で、傷つきやすく、したたかで身勝手な、男女の生存戦略。

【6】黄泉の國

1

「ここではないどこかへ」

それが彼らのキャッチコピーだった

 

新興宗教団体「黄泉の国」は、

この世の中に不満を抱える人、生きがたさを抱えている人、

貧乏人、変人、マイノリティなどを中心に信者を増やしていた

 

池上紳助は、2代目の教祖だが

先代はいわば箱を用意しただけで

実質、団体を大きくしたのは彼だった

 

「ぜったいに勧誘してはならない」と紳助は言っていた

 

2

「ダイヤモンドになりなさい」と紳助は言った

 

「あなたが本物のダイヤモンドなら

誰かが見つけたら必ずそれを拾います

 勧誘するというのは、偽物を売りつけよう、

自分が得がをしようという欲や焦りなのです

 

偽物を売りつけるのではなく、あなたがまず

本物のダイヤモンドになりなさい」と言うのだった

 

【】

黄泉の国の一般の人に向けた活動には

ラジオ体操や、小さな私営の塾などがあった

そこでも勧誘のようなことは一切なかった

 

さらに「来るもの拒まず、去る者追わず」で

信者をやめるのも自由だということになっていた

 

しかし、それは表向きの話で実は

信者にはライトコースを本格コースのような

二段階に分かれているという噂もあった

「勧誘してはいけない」とか、「去る者追わず」というのは

あくまでライトコース向けの話だというのだ

 

3

紳助は詐欺師であるという噂もあった

あまりに欲がなさすぎたからこそ生まれた噂であった

勧誘をしない、金に執着しない

それが彼の特徴だった

 

紳助は言う

「お金というのは、なんですか?

これは物々交換をする際に、便利であるという理由で生まれと言われてます

つまり、手段、道具ですね

本来は、お金そのののが目的ではなかったはずです

 

 私が、お金を考えるときによく言うのが、『お金は水道管である』と。

お金を水道管にたとえます。

 水道管というのは、なんですか?

水を運ぶためのものですね。

水道管そのものが目的ではない。

水道管ばっかり水も流さずに、集めまくったり、作りまくってもしょうがないわけです。

 

4

 しかし世の中、お金は、なにかに使う、

ものやサービスに支払うとか、募金とか、国の財政もそうですね

使うために、目的のためにあるのに、

ただ、とりあえず増やしたいという傾向が、あまりに強すぎる。

まぁ一般の方が、ある程度もしものために蓄えるというのは必要でしょうが、

とにかくお金そのものが目的になっている面もあります。

こういう常識というか、屁理屈というか

どう受け止めていいのか、その真意をはかりかねるようなことを

紳助はたえず言っていた。

 

5

「金、人気、名誉、外見、あとは異性ですかね。

私は男なので、女性ということになりますが、

女性も同じくらい男性に執着してるものでしょうか?

まぁ、ちょっとその度合は同じかはわかりませんけども、

そういう人が暴走しがちな、欲望の対象というものがあります

 

たとえば人気というものね

これは私が、勧誘しないとしている理由とも関連する話です」

 

5

「人気ね

人気が先か、価値が先か

人気のあるものは、つねに価値があるのか

価値のあるものは、つねに人気があるのか

 これを考えてください